アーキテクトマインド


法政大学建築学科・大学院建築学専攻の学習・教育到達目標のうち、「アーキテクトマインド」は本学の教授であられた大江宏先生が、常日頃、提唱されていたものである。 この7項目は、建築学科の到達目標としてかねてから提案されていた文言を趣旨に従いつつ、箇条書きに改めたものである。

 

●建築学科の学習・教育到達目標

 

「アーキテクトマインド」について学ぶ

 

1)総合デザイン(Holistic Design)力について学ぶ。
2)建築が歴史および文化と不可分であることを学ぶ。
3)グローバルな視点と持続可能な環境を見すえた倫理観を習得する。
4)人間の安心、安全、快適を保障する建築知識および建築技術を習得する。
5)技術や実用性に芸術性を加えることで、人に感動を与える「もの」の制作が行なえることを学ぶ。
6)自然科学と社会科学および情報技術に関する知識とその応用能力を習得する。
7)さまざまなレベルでの表現能力、コミュニケーション能力を習得する。

【解説】
それぞれの学習・教育到達目標の略称とその主旨を以下に記した。

 
「アーキテクトマインド」について学ぶ
古代ギリシャ語を語源とするアーキ(最高の)+テクチュア(技術)を身につけた「アーキテクト」になるためには、 工学の知識と理性だけでなく、芸術、歴史、文化、思想、社会、経済をも包括する美系の感性と文系の知性をあわせ持つことが不可欠であり、 個々人が建築との間に的確な立脚点を定めながら、その全体性を探求し続けることが求められる。
今日の建築世界は、その専門の分化と多様化により、相互の間を取り結ぶべき連続性を失って、すべてが断片として孤立する不毛な時代に陥った。 ときに、「技術」と「芸術」の対立は、建築の全体性の概念をも破壊しようとした。
いま、われわれはそれを取り戻し、芸術のなかにも技術的属性が要求されるし、また技術のなかにも芸術的資質が必要であることを自覚しなければならない。 こうした建築の全体性は個々人のなかにつくり続けられるものであって、すべては個人の知識と感性の総体によって創出される。 これこそが、法政建築の目指す「アーキテクトマインド」であり、その素質がわれわれの第一義である。

1)【総合デザイン力】総合デザイン(Holistic Design)力について学ぶ
工学をベースとしながら、他の学問分野との知識の融合による正しい価値を創造し、 デザインする工学としての総合デザイン力と技能を身につける。建築の問題を幅広い観点から捉え、解を自主的かつ継続的に見出す力を養う。

2)【文化性】建築が歴史および文化と不可分であることを学ぶ。
歴史と文化という視点は他の工学分野と建築を峻別する。建築とは異文化への造詣を養い、過去を参照しながら、現在および未来を志向するものである。

3)【倫理観】グローバルな視点と持続可能な環境を見すえた倫理観を習得する。
地球環境をいかにして保持するかが建築・都市・環境に関わる専門家の倫理観の根幹とならなくてはならない。建築デザインは社会的責任を伴うものであることを理解する。

4)【建築の公理】人間の安心、安全、快適を保障する建築知識および建築技術を習得する。
建築の初源がシェルターであるとするなら、安全、安心、快適はそれほどまでに建築の根源的な公理である。建築が健全な社会の礎を担うことを学ぶ。

5)【芸術性】技術や実用性に芸術性を加えることで、人に感動を与える「もの」の制作が行なえることを学ぶ。
技術と芸術の両立は永遠のテーマである。建築がそのふたつの要素の統合を果たしたとき、人に感動を与えることができる。

6)【教養力】自然科学と社会科学および情報技術に関する基礎知識とその応用能力を習得する。
建築の背景となる社会的な要請を論理的に分析し、理解することは建築を構想する土壌となる。 数学、物理学などの自然科学および情報技術に関する知識が客観的で総合的な見識の基礎であることを理解する。

7)【表現力】さまざまなレベルでの表現能力、コミュニケーション能力を習得する。
建築することとは統合することであり、統合するためにはコミュニケーションやチームワークが不可欠である。 そのスキルを担う、さまざまなレベルでの表現能力の涵養が社会を見据えた提案能力を培う。

 



 

●大学院の学習・教育到達目標

 

「アーキテクトマインド」の習得をめざす

1) 総合デザイン(Holistic Design)と何かを理解し、これを設計において実勢する能力を備える。
2) 歴史および文化が建築とは不可分なものであることを理解することにより、設計内容を豊かにするための素養を身につける。
3) 地球と社会に関するグローバルで持続可能な視点を設計行為の倫理的規範として学ぶ。
4) 活動する人間の安心、構造の安全、環境の快適さを確保するための専門知識と専門技術を幅広く習得し設計に役立てる。
5) 技術発展と芸術創造に関する相補的で均衡ある理解が、優れた建築と都市および環境を生み出しえることを学ぶ。
6) 情報技術およびその応力能力を高め、企画・設計作業に必要な高度なIT能力を開発する。
7) 研究・企画内容・設計案を論理的に記述し、口頭で発表し討議する能力を修練する。

 

【解説】

それぞれの学習・教育到達目標の略称とその主旨を以下に記した。

「アーキテクトマインド」の習得をめざす
建築学では周辺学問領域のみならず、一見関係性の乏しい学問領域からの波及的影響を受けて、 材料や構法など建築の技術基盤に大きな革新がしばしばもたらされる。 この結果および社会環境と生活様式の変遷、社会と個人の価値意識の変化などとが結合し時を経ると、 建物の内外観や都市空間の相貌に見るデザイン上の思潮にも徐々にあるいは劇的に大きな影響が現れてくる。 事実、このような経路による大きな建築上の変革を近代建築はたびたび経験してきている。
これは何も建築に限った話ではなく、近代科学技術の急速な自己発展力の獲得と社会や産業における各分野、 各階層における相互連関の濃密な深化に基づく一般的な傾向と捉えることもできる。このような状況下において、 我々は人類と地球環境にとって建築学がいかなる方向において寄与し得るかを十分な歴史認識と文化的洞察とを以て、深く考究して行かなければならない。
こうした諸学全般にわたる均衡的な理解を持ちながら、建築の社会的使命を果たそうとする心構えを我々はアーキテクトマインドと呼んでいる。 そして、その涵養を教育の中核に捉えて、各分野の修業を可能とするよう編まれたものが本大学院建築学専攻(スタジオ系)のプログラムである。 本プログラムでは一連のコースワークからなるデザイン教育が以下のカテゴリーの修習を目指して実施される。

1)【総合デザイン力】総合デザイン(Holistic Design)とは何かを理解し、これを設計において実践する能力を備える。
総合デザインは、既に存在する目標やニーズに対応するだけのものではない。 また、単に機能的で安全・堅牢、かつ美しければよいとする基本的な仕様を満たすだけにとどまるものでもない。 むしろ、社会の健全なる発展のためにビジュアルなデザイン目標を設定し、これにより未知のニーズを掘り起こし、 その定着を図ることによって、永続的な文化的価値を新たに創造しようとする企てである。

2)【歴史と文化】歴史および文化が建築とは不可分なものであることを理解することにより、設計内容を豊かにするための素養を身につける。
人類の遺産である歴史と文化は建築の発展に深く関与してきた。この深い結びつきを理解することは人類が建築に託し、 これからも建築に希求する大切なメッセージを読み解くことに他ならない。

3)【持続可能性と設計倫理】地球と社会に関するグローバルで持続可能な視点を設計行為の倫理的規範として学ぶ。
総合デザインの成果は、地球環境を保全し、サステイナブルな社会の創出に寄与するものでなければならない。しかしながら、 ひとたび現実の中にデザインされたものが置かれると、必ずしも予期したような結果をもたらすとは限らない。 それゆえ、デザインを担う人材はデザイン行為の結果には社会的責任が伴うことを深く認識するとともに、 不測の事態にも柔軟に対応しつつ目標の実現を追求する高度な職業意識を持った専門家でなければならない。

4)【専門性】活動する人間の安心、構造の安全、環境の快適さを確保するための専門知識と専門技術を幅広く習得し設計に役立てる。
建築デザインは建築を構成する幅広い技術の全般的理解が設計の各局面で生じる問題解決に大きな助けとなることが少なくない。 また、異業種との共同作業が極めて多い建設工程を円滑に進めるためにも専門技術の広範な習得が十分になされていることが肝要である。

5)【技術と芸術】技術発展と芸術創造に関する相補的で均衡ある理解が、優れた建築と都市および環境を生み出しえることと学ぶ。
文理にまたがる科学全般に関する基礎的な知識と建築デザインに必要な一連の工学技術を幅広く習得することと、 美に対する認識を深め、感性と表現力を養うことがデザイン教育のファンダメンタルズである。

6)【情報技術】情報技術およびその応力能力を高め、企画・設計作業に必要な高度なIT能力を開発する。
与えられたテーマを幅広い観点から調査分析し、デザインとしてまとめる基礎的能力の獲得には多様で大量な情報を素早く整理吟味し、 真に有用な情報を的確に抽出し、処理する能力が必要とされる。さもないと、不適切な情報抽出の結果、 その誤謬に気がつかずに設計の企画段階で目標設定を大きく見間違う可能性がある。 また、設計工程は情報の統合化作業であるから高度で的確な情報処理能力が常にその支えである。

7)【表現能力・コミュニケーション能力】研究・企画内容・設計案を論理的に記述し、口頭で発表し討議する能力を修練する。
建築・都市・環境デザインの実践に際しては、さまざまなレベルでの表現能力、コミュニケーション能力が活用され、また要求される。 異業種との協業、利害の調節、国際協調など、立場の溝を埋めて企画をまとめ上げるには自分の持ち分に関する的確な説明能力、 表現能力および他者との交渉能力を磨く必要があり、これらの能力開発をデザイン学習の中に取り入れる。

 


 

法政大学デザイン工学部建築学科およびデザイン工学部大学院デザイン工学研究科建築学専攻は2013年度から日本技術者教育認定機構(JABEE)の認定を受けています。

プログラム区分:
建築系学士修士過程プログラム
エンジニアリング系学士課程プログラム

プログラム名称:
法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻 建築デザインプログラム
法政大学デザイン工学部建築学科